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お知らせ

【症例01】下顎前突・ガミースマイルを両顎手術+マウスピース矯正で改善|20代女性

症例報告 / CASE REPORT

ガミースマイル・下顎前突に対し
Surgery First Approach及びマウスピース型矯正装置を用いて治療した一症例

2025年4月
担当:西川 徹
矯正歯科・顎変形症

PATIENT SUMMARY 患者情報

20代・女性

ガミースマイルとフェイスラインを整えたい(下顎が出ている感じ)

骨格性3級、ガミースマイル(上顎垂直的過成長)、顔面軽度非対称、上下顎前歯部軽度叢生

Surgery First Approach+マウスピース型矯正装置

Le Fort I型骨切り術+下顎枝矢状分割術(SSRO)

非抜歯

約11ヶ月(第1期8ヶ月+追加修正3ヶ月)

3日/枚(術後RAP活用期間)

初診時所見・診断

ガミースマイル(上顎垂直的過成長に起因)及び下顎前突を主訴に来院。他院にて前歯部歯槽骨切り術(セットバック)を提案されていたが、骨格性の問題を根本解決するには不十分と判断され、複数施設でのカウンセリングを経て当院を受診した症例である。

顔貌所見ではスマイル時の上顎歯肉露出が顕著であり下顎骨体部がやや長傾向。口元の前突感を含めて改善する必要があった。口腔内所見では上下顎ともに叢生を認めるが、歯槽性のディスクレパンシーは軽〜中等度であり、骨格性問題の占める割合が大きいと診断した。精密検査(セファログラム・三次元CT・デジタル印象採得)により治療計画を立案した。

初診時顔貌写真

初診時顔貌 2024年7月
初診時顔貌

初診時口腔内写真

初診時口腔内 2024年7月
初診時口腔内
診断のポイント:ガミースマイルの原因が上顎垂直的過成長にあること、および口元突出(下顎前突)の主因が歯槽性ではなく骨格性であることから、矯正単独治療では軟組織プロファイルの改善に限界があると判断。Surgery First Approachによる外科矯正治療を選択した。

治療方針・治療計画

ガミースマイル(上顎垂直的過成長に起因)に対し、Le Fort I型骨切り術による上顎の上方移動、SSROによる下顎の後方移動と上下顎での回転移動を先行させるSurgery First Approachを採用した。初診時はAngleI級であったが、術後の下顎後退に伴いII級傾向となることを想定し、矯正治療での上顎臼歯部遠心移動を行い最終的な仕上がりをAngleI級にする計画を立てた。

外科プランニングの詳細(術前3Dシミュレーション)

術前に鶴木三郎先生(鶴木クリニック)との術前カンファレンス(作戦会議)を実施し、骨移動量および矯正移動シークエンスを精密に擦り合わせた。三次元CTデータをもとに以下の骨移動量を設計した。

  • PNS(後鼻棘):上方移動 約4.86mm
  • 上顎前歯部(ANS周囲):上方移動 約3mm弱
  • 下顎:後退方向への移動(軟組織プロファイルの改善目的)
  • 上下顎:時計方向回転移動(軟組織プロファイルの改善目的)
  • ANS前方移動量:最小限(後の矯正治療により上顎前歯部の後方移動を行う)

なお本症例では初診時より鼻腔断面が解剖学的に狭小であることが確認されており、上顎上方移動に際してはANS周囲の骨削除による鼻腔断面の確保および鼻翼基部のACR(Alar Cinch Release)処理を実施し、術後の鼻呼吸機能と鼻翼形態の維持を図った。上顎を上方移動させた場合、ANSが挙上されることで鼻腔形態がつぶれた印象になりやすいため、この配慮は本症例において特に重要な外科的判断であった。

矯正担当医(西川)は「矯正側では歯をこの位置に持っていく」という前提のもと、上顎前歯部をあえて術直後に前突傾向で設定し、術後矯正にて上顎前歯を後退させるシークエンスを設計。これにより上顎骨の後方移動により引き起こされる気道の狭小引き起こすことなく、歯牙の移動により後方移動分を補償することができる。Surgery First Approachにおいては術直後の咬合関係が一見II級・前突傾向となることを術前に患者へ説明・共有した。

  • 外科処置:Le Fort I型骨切り術+SSRO(Surgery First Approach)
  • 矯正装置:マウスピース型矯正装置(アライナー矯正)
  • 非抜歯にて対応(インプラントアンカーを併用し臼歯部遠心移動にて対応)
  • アライナー交換頻度:RAP活用期間中3日/枚(通常7〜10日)
  • 第1期終了後、上顎前歯部約2mmの追加後退プランニングを実施
  • 矯正治療期間:第1期8ヶ月+修正期間3ヶ月=計約11ヶ月

治療経過

PHASE 01 精密検査・術前カンファレンス・治療計画立案
セファログラム・パノラマX線・三次元CT・デジタル印象採得を実施。3Dシミュレーション(プロフィログラム、インビザラインクリンチェックを用いた分析)にて骨移動量・アライナー移動シークエンスを精密設計。術前に鶴木先生との作戦会議を行い、骨移動量・外科的骨切りラインおよび術後矯正シークエンスを緻密に擦り合わせた。軟組織・硬組織のゴール予測を患者と共有した。
PHASE 02 外科処置(Surgery First)
Le Fort I型骨切り術(PNS上方移動4.86mm・上顎前歯部上方移動約3mm・後退)+SSRO(下顎時計方向回転移動)施行。鼻腔狭小症例のため、ANS周囲骨削除による鼻腔断面確保およびACR処理を実施。術後6週間は開口量1cm以下に制限。開口訓練は術後約6週より段階的に開始し、最終的に4横指(約4cm)の開口量を確保した。
PHASE 03 アライナー矯正開始〜第1期終了(術後〜8ヶ月)
RAP活性化期間を最大限に活用し、アライナー交換を3日毎に設定。通常の2倍以上のペースで歯牙移動が進行し、術後8ヶ月の時点でプランニング通りの歯列整直および咬合の安定を確認。術直後のII級・前突傾向から、設計通りのI級咬合・正中一致へと誘導した。
PHASE 04 追加プランニング・修正矯正(3ヶ月)
患者より上顎前歯部のさらなる後退を希望。上顎前歯部に約2mmの追加後退プランニングを立案し、引き続きインプラントアンカーを併用しながら咬合の精密調整を実施。最終的に正中一致・I級咬合・適切な前歯被蓋を達成した。
PHASE 05 保定開始
治療終了後、リテーナーを装着し、保定管理を開始した。

治療経過写真

術後8ヶ月時点(第1期終了・追加プランニング前)の口腔内所見。歯列の整直および咬合の改善が認められる。この後、上顎前歯部の追加後退(約2mm)を含む修正矯正を3ヶ月実施することとなる。

術後8ヶ月・口腔内所見(追加修正前)

術後8ヶ月・口腔内 2025年4月
術後8ヶ月口腔内

治療前後比較

総治療期間約11ヶ月での治療終了時所見。ガミースマイルの改善、下顎前突の改善、上下顎叢生の解消、顔面非対称の改善、および軟組織プロファイルの顕著な改善が認められた。チークラインの立体感回復・下顔面高のコンパクト化・側貌における口元突出感の解消が確認された。

顔貌比較

治療前 2024年7月
治療前顔貌
治療後 2025年4月
治療後顔貌

口腔内比較

治療前 口腔内 2024年7月
治療前口腔内
治療後 口腔内 2025年4月
治療後口腔内

執刀医コメント

鶴木クリニック 鶴木三郎先生

本症例では術前の3Dシミュレーションおよびプロフィログラム分析に基づき、内眼角間距離を基準として骨格の中心線を設定した上で骨移動量を決定した。Le Fort I型骨切り術においてPNSを約4.86mm上方移動させ、前歯部で約3mm弱の上方移動を加えることでガミースマイルの改善と下顔面高のコンパクト化を図った。

本症例で特筆すべき点として、初診時より鼻腔断面が解剖学的に極めて狭小であったことが挙げられる。上顎上方移動に伴うANS挙上は鼻腔形態の偏平化・鼻翼基部の広がりを招きやすいため、ANS周囲の骨削除による鼻腔断面の積極的確保およびACR処理を施した。機能面(鼻呼吸の維持)と審美面(鼻翼形態の保持)の両立を意識した外科的判断である。

また術前シミュレーション上、ANSの後方移動量はほぼゼロに近い設計とした。上顎を短くする方向への移動では軟組織に余剰が生じやすいため、あえてANSを後方に移動させないことで自然な軟組織プロファイルを確保するという判断である。結果として、持ち上げた分の立体感が自然な形で顔貌に反映され、チークラインの回復と良好な顔面の立体感が得られた。

鶴木先生より:「西川先生と私はピッチャーとキャッチャーのような関係です。私が骨格をこの位置に持ってきて、最後に西川先生がきちんとまとめる。その連携があってこそ、狙い通りの治療結果が得られる。Surgery First Approachにおいて3Dシミュレーションなしで行うことは無謀であり、緻密な計算と術前のカンファレンスが不可欠です。シミュレーション通りに骨も歯も動くかどうか、そこが全てです。」

考察・担当矯正医コメント

本症例はSurgery First Approach+アライナー矯正の組み合わせによる顎変形症治療であり、術後のRAPを積極的に活用することで、通常の外科矯正治療と比較して矯正期間を大幅に短縮できた。アライナー交換頻度を3日/枚に設定した結果、第1期矯正期間は8ヶ月での終了を達成した。

Surgery First Approachにおけるアライナー矯正の有用性として、通常の術前矯正では「デンタルコンペンセーション(歯性代償)の除去」が主目的となりサンドイッチ型(術前矯正・手術・術後矯正)の治療フローをとるのに対し、Surgery Firstではコンペンセーションが残存した状態での骨移動設計が求められる点が大きく異なる。この難易度の高さに対応するために、3Dデジタルシミュレーションによる骨移動・歯牙移動の精密な事前設計が不可欠であり、アライナー矯正はそのシミュレーション設計との親和性が極めて高い。

矯正医側から術前に「ここの咬合位置に持ってきてください」という明確な指示のもと、手術で迷いのない位置決めが可能となる。そのためには術前に矯正側でプランニングを済ませておき、それをもとに骨の移動量を矯正医側が外科医に打診するという通常とは真逆のアプローチがSurgery Firstで成功率を上げるために必須となる。その前提があるからこそ、術直後のII級・前突傾向を経て、プランニング通りのI級咬合・正中一致・適切な前歯被蓋へと誘導できる。外科医との術前カンファレンスと、骨移動量を把握した上での矯正シークエンス設計こそが、Surgery Firstの成否を分けると考える。

なお本症例では第1期終了後に患者より上顎前歯部のさらなる後退を希望されたため、追加プランニング(約2mm後退)を実施し合計3ヶ月の修正期間を要したが、これも含めてトータル11ヶ月での治療終了を達成した。アライナー矯正はClinCheckシミュレーションにより治療途中でのリプランが比較的容易であり、この点も本症例での採用理由の一つである。

本症例のポイント:Surgery First Approach+アライナー矯正によりRAPを最大活用し、顎変形症症例において約11ヶ月という短期間での外科矯正治療を達成。術前の3Dシミュレーションと外科医との緻密な連携、そしてデジタルシミュレーションによる術後矯正設計の精度が、本症例の良好な治療結果の核心であった。

リスク・合併症・注意事項

  • 外科矯正治療に伴う術後腫脹・疼痛・開口障害は一般的な術後反応であり、本症例でも術後6週間の開口制限および開口訓練を要した。
  • Surgery First Approachでは術後の咬合変化が生じやすく、アライナーによる精密な咬合誘導と頻回のフィッティング確認が必須である。
  • 歯根吸収・歯槽骨吸収・ブラックトライアングル(歯間空隙)が生じる可能性があり、定期的なX線評価が必要である。
  • 保定期間中の後戻りリスクがあり、固定式・可撤式リテーナーの長期管理が必要である。
  • 治療結果は骨格・歯牙・軟組織条件により個人差があり、同一の結果を保証するものではない。

※ 掲載に関する注意事項
本症例は患者本人の同意を得た上で掲載しています。治療結果は個人の骨格・歯牙・軟組織条件により異なり、同様の結果を保証するものではありません。治療費・治療期間は症例により異なります。本症例は自由診療です。詳細は担当医までお問い合わせください。