【この記事はこんな方に向けて書いています】
✓ 両顎手術を検討中の方
✓両顎手術の矯正について知りたい方
✓ 「マウスピース矯正では難しい」と言われた経験がある方
✓ 顎変形症治療において、執刀医の経歴や人柄を知りたい方
すべての始まりは、鶴木先生との出会いだった
私は現在、顎変形症に対する両顎手術を前提とした矯正治療の中で、マウスピース矯正を専門に行っています。
おそらく、この領域に限れば、日本でも数少ない立ち位置だと思います。
この文章は、
- 私自身がどのような環境で、
- どのような恩師と出会い、
- どのような空気の中で臨床を学んできたのか。
その「起点」を、できるだけ飾らずに書き残しておきたいと思い、筆を取りました。
医療は、知識や技術だけで成り立つものではありません。
制度があり、教育があり、そして臨床の現場で積み重ねられてきた歴史があります。
特に、矯正治療や両顎手術のように、患者さんの人生に深く関わる医療では、
「どこで、誰のもとで、何を見てきたか」
その積み重ねが、そのまま治療の思想や姿勢として表れます。
私の歯科医師としての土台を形づくってくれた歩みを、ここに記しておくとともに、この場を借りて、鶴木隆先生、鶴木三郎先生、そしてこれまで導いてくださったすべての先生方に、心から感謝を申し上げます。
矯正医を志した原点
まず、私が「矯正治療一本でいこう」と決めた理由からお話しします。
大学に入学してから2年生までは、正直なところ、どの分野に進むべきか決めきれず、どこかモヤモヤした時間を過ごしていました。
転機は、3年生で受けた矯正学の授業でした。
「このメカニクスで、歯は動いていたのか」
それまでの授業は、歯を削り、修復するという内容が中心でした。しかし矯正学は、歯を動かし、構造そのものを変えていく世界だった。
まったく新しい概念に触れた瞬間、強く心を掴まれたのを今でも覚えています。
そこから、自然と矯正について学び続けるようになりました。
そして勉強を重ねる中で、私の中に一つの確かな感覚が芽生えていきます。
それは、
「歯をきれいに並べたい」という感覚よりも、「構造そのものが、あるべき位置にあるべきだ」という考えでした。
歯並びは、結果です。原因は、もっと深いところにあります。
骨格、咬合、日常生活での癖。そこを無視して歯だけを動かしても、必ずどこかに無理が残る。
その”深さ”に気づいたことが、私をより強く、矯正歯科という道へ向かわせました。
歯科医師臨床研修という「最初の現場」
臨床研修制度の意義
大学を卒業したからといって、すぐに一人前の歯科医師として診療ができるわけではありません。
日本では2006年(平成18年)から、歯科医師臨床研修制度が義務化されています¹。
この制度は、知識や技術だけでなく、
- 患者さんと向き合う姿勢
- 医療人としての人格形成
- 社会的役割の理解
こうしたものを身につけることを目的としています。
研修期間は原則1年以上。大学病院や、厚生労働省が指定した病院・診療所で、指導医のもと、実際の患者さんを通して臨床経験を積みます。
この研修は、専門研修や生涯研修へと続く歯科医師人生の第一歩であり、将来、独立して医療を行ううえでも欠かすことのできないプロセスです。
【参考文献】 ¹ 厚生労働省「歯科医師臨床研修制度の変遷」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shikarinsyo/hensen/keii.html
鶴木クリニックという研修先
私は学生時代から、「できるだけ早く矯正治療の現場に身を置きたい」と考えていました。
そのため研修先も、”実際に矯正治療を行っている場所”を強く希望していました。
当時、大学の研修医を受け入れていた提携クリニックの中で、矯正歯科を標榜していたのは一箇所だけでした。
それが、鶴木クリニックでした。
今振り返れば、あれは運命だったのだと思います。
私は歯科医師としての最初の一歩を、この場所で踏み出すことになりました。
日本の顎変形症治療の「源流」に立っていた
顎変形症とは何か
研修を始めてしばらくして、私は、自分が想像していた以上に重みのある場所に身を置いていることに気づきます。
鶴木クリニックは、単なる矯正歯科ではありませんでした。日本における顎変形症治療、特に両顎手術の歴史そのものとも言える場所だったのです。
ここで、少し顎変形症について説明させてください。
顎変形症とは、上顎骨や下顎骨の位置・大きさ・形態の異常により、咬合(噛み合わせ)や顔貌(顔つき)に問題が生じる疾患です。
代表的な症状として、
- 下顎前突症(受け口)
- 上顎前突症(出っ歯)
- 顔面非対称(顎のズレ)
- 開咬(奥歯は噛んでいるのに前歯が閉じない)
などがあります。
日本における治療の実態
日本では1990年代から両顎手術(上下顎同時移動術)が保険適用となり、現在では年間約3,000〜4,000件以上の顎矯正手術が実施されています²⁻³。
【参考文献】 ² 特定非営利活動法人 日本顎変形症学会 http://jaw-deform.jp/
³ 横浜市立大学「口腔外科・矯正歯科協働で目指す、精密な顎変形症治療」(2017年度実態調査:全国163施設で年間3,405件) https://www.yokohama-cu.ac.jp/urahp/medical/medicalnews/jawdeformity.html
両顎手術を日本に持ち込んだ鶴木隆先生
このクリニックの礎を築いたのが、鶴木隆先生です。
隆先生は、顎矯正手術の世界的先駆者のもとで学ぶため、スイス・チューリッヒ大学に留学し、約3年間(1977〜1980年)にわたり顎矯正手術を徹底的に学ばれました⁴。
そこで師事されたのが、Hugo Obwegeser教授です。
Obwegeser教授は、1955年に下顎枝矢状分割術(SSRO:Sagittal Split Ramus Osteotomy)を開発された、顎矯正手術の創始者の一人です⁵。
この術式は、70年近く経った現在でも世界中で最も広く用いられている手術法であり、日本でも保険適用の標準術式となっています。
隆先生はこの技術と理念を日本に持ち帰られ、やがて両顎手術は保険適用の術式として定着していきます。
鶴木クリニックは、まさにその原点の一つでした。
【参考文献】 ⁴ 鶴木クリニック医科・歯科「スタッフ紹介」 https://tsuruki.org/staff/
⁵ 東京歯科大学「顎変形症治療の現在と歯科医師の役割」(PDF) https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/6215/1/123_83.pdf
「今週末、手術見学してみる?」
もっとも、研修医として入った当初の私は、両顎手術に強い関心を持っていたわけではありません。あくまで矯正を学ぶつもりでした。
そんなある日、鶴木三郎先生から、ふと声をかけられました。
「今週末、手術見学してみる?」
特別な説明も、重い前置きもありません。
その何気ない一言が、今でも強く記憶に残っています。
目の前で起きていた「別次元の医療」
日曜日の朝8時前、本八幡のクリニックに集合。オペ着に着替え、8時半に手術が始まりました。
手術室で目にした光景は、それまでの私の価値観を一変させるものでした。
教科書でしか見たことのない術野。大学病院でも限られたチームでしか行えないような大手術が、目の前で、淡々と、しかし驚くほど緻密に進んでいく。
- 骨が切られ、
- 位置が変わり、
- 噛み合わせが再構築されていく。
そのすべての工程に、迷いがありませんでした。
「矯正」という言葉だけでは、とても括れない世界が、そこにはありました。
矯正治療の「天井」が消えた瞬間
その後、私は何度も手術を見学し、アシストにも入らせていただきました。
外科的に骨格が動かされ、その上で咬合が再構築されていく過程を目の当たりにする中で、一つの確信が生まれました。
従来の矯正治療には、どうしても「天井」がある。
現在の骨格を前提に、その範囲内で歯列を整えるという限界です。
しかし、骨格から正すという選択肢を知ったことで、その天井は消えました。
外科的矯正治療の意義
従来の歯列矯正だけでは対応できない重度の骨格性不正咬合に対し、外科的矯正治療(顎矯正手術+矯正歯科治療)は極めて有効です。
国内外の多数の研究で、咬合機能・審美性・QOL(生活の質)の有意な改善が報告されています⁶⁻⁷。
特に両顎手術は、以下のような利点があります:
- 上下顎を同時に調整できるため、より理想的な咬合と顔貌が実現可能
- 単顎手術と比較して、顎関節への負担が少ない
- 術後の安定性が高い
【参考文献】 ⁶ Proffit WR, et al. “Contemporary treatment of dentofacial deformity.” Mosby, 2003. ⁷ 日本顎変形症学会雑誌(関連論文多数掲載)
そしてこの経験は、外科矯正を行わない症例においても、私の矯正治療の解像度を大きく引き上げてくれました。
なぜ術後矯正に「マウスピース矯正」なのか
従来と新しい選択肢
両顎手術後の矯正治療では、従来はワイヤー矯正(マルチブラケット装置)が主流でした。
しかし近年、マウスピース型矯正装置の進化により、術後矯正においても選択肢として検討されるようになっています。
マウスピース矯正の利点
- 衛生管理がしやすい:手術直後は口腔内が敏感。取り外し可能な装置は清掃性に優れる
- 審美性:社会復帰後の見た目への配慮
- 違和感の軽減:ブラケットによる粘膜への刺激がない
ただし、すべての症例に適応できるわけではありません
術後の咬合状態、骨の安定性、患者さんの協力度などを総合的に判断し、適応症例を慎重に選定する必要があります。
私自身、鶴木クリニックでの経験を通じて、「外科矯正における咬合の本質」を理解したからこそ、マウスピース矯正でも妥協のない仕上がりを追求できると考えています。
この場所で学んだ「手軽に施術してはいけない理由」
日本では、歯科医師免許の守備範囲は非常に広く設定されています。
歯列矯正や補綴は歯科医師しかできませんが、顎の領域は、医科と歯科が重なり合う境界領域でもあります。
免許上は、歯科医師であっても、医師であっても、理論上は関わることができる。
しかし、現実は免許の問題ではありません。
必要なのは、
- 解剖学への深い理解、
- 十分な臨床経験、
- そして専門性の異なる医療者同士が連携するチーム医療です。
「できるからやる」「流行っているからやる」
それだけで扱っていい領域ではない。
鶴木クリニックで私が学んだのは、技術の凄さ以上に、この領域に向き合う覚悟と姿勢でした。
その姿勢こそが、今、私が患者さんと向き合う際の臨床理念の原点になっています。
次回予告
今回は、ここで一度区切りたいと思います。
次回は、私が矯正を学び続ける中で感じるようになった、
日本の歯科医療が抱える構造的な違和感
そして、
患者さんにとって本当に必要な情報とは何か
について触れていく予定です。
このような方はぜひご相談ください
【免責事項】 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療を提供するものではありません。顎変形症の診断や治療方針については、必ず専門医による診察を受けてください。

