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両顎手術・術後矯正

両顎手術の術後矯正はいつから?「待ちましょう」の中身を矯正医が解説

「腫れが引いたら検査をして、それから装置をつけましょう」
「口が開くようになるまで待ちましょう」

両顎手術を終えたあとそう言われて予定表を見ると、矯正の開始は2か月後、3か月後。噛み合わせは合っていない。それなのに、何もしない時間が続く——。

「両顎手術 術後矯正 いつから」と検索してこのページにたどり着いた方の多くは、この宙ぶらりんの時間に不安を感じていらっしゃると思います。

先に結論をお伝えします。術後矯正の開始時期にすべての方に当てはまる正解はありません。骨の固定状態や術式によって適切な時期は変わります。ただし、「なぜ待っているのか」の理由は確認できますし、待っている間にも進められることがあります。

この記事では、その見分け方をお伝えします。

「いつから始まりますか」は、術後の方から最も多い質問です

私はオンライン相談で、すでに手術を終えた方からのご相談を数多くお受けしています。そのなかで、開始時期についてはほぼ必ず質問が出ます。

術後1か月の方からはこう聞かれました。「術後は歯が動きやすい時期があると聞きました。それはいつまで続くのですか。矯正はいつから始めるのが良いのでしょうか」。手術で噛み合わせが変わり、犬歯だけが早く当たって奥歯が浮いている状態でした。

もうひとつ、印象に残っているケースがあります。手術を受けるに、国内で裏側矯正を検討していた方です。ところが「矯正の開始までは2〜2.5か月お待ちください」と言われ、その待ち時間に不安を感じて、先に韓国で手術を受けることを選ばれました。結果として、術後の矯正を引き受ける医院を手術のあとから探すことになりました。

待ち時間そのものがその方の意思決定を変えてしまったわけです。「待つ」という言葉は、患者さんにとって想像以上に重い——このことは、私自身が強く意識するようになった点でもあります。

術後1か月ほどでご相談に来られた方は、開始時期についていくつも質問を用意されていました。骨の代謝が上がる時期はいつまで続くのか、矯正はいつ始めるべきか、費用はどうなるのか。ひととおり伺ったあとで、その方がぽつりと言われたのが「手術の前に、噛み合わせが変わるという説明は受けていませんでした。外科の先生はこちらが聞いたことにしか答えてくれなかったので」という言葉でした。

質問できなかったのは、その方の準備不足ではありません。何を聞けばよいかを知るには、手術と矯正がどう分担されているかを先に理解している必要があるからです。私がその分担と開始時期を決める要素を順にご説明したところ、「やっと順番が分かりました」と言っていただけました。知りたかったのは開始日そのものではなく、何がその日を決めているのか、という部分だったのだと思います。

術後には、歯が動きやすくなる時期があります

まず、多くの方が耳にする「術後は歯が動きやすい」という話から整理します。

骨を切った部位には血流が集まり、骨の代謝(つくり替えの働き)が一時的に高まります。これはRAP(Regional Acceleratory Phenomenon:局所加速現象)と呼ばれ、1983年にFrostによって報告された、骨が損傷に反応して治ろうとするときの一般的な現象です[1]。骨折の治癒でも、抜歯した穴が治るときでも起こります。

両顎手術はいわば計画された人工的な骨折です。そのため術後は骨の代謝が高まった状態になります。この時期に矯正を行うと、歯の移動が通常より速く進むことが報告されています[2]

「いつまで続くのか」——文献と臨床実感

期間についてお伝えします。

報告されている数値では、手術によって骨の代謝が高まった状態は術後3〜4か月ほど続き、そのピークは術後1〜2か月とされています[3]。骨のつくり替えを担う細胞の働きは、数か月かけて通常のレベルに戻っていくと説明されています[1]

一方で、私自身の臨床での実感としては歯の動きやすさは半年から1年程度緩やかに続いているという印象があります。

この2つは必ずしも矛盾しません。文献が測定しているのは「加速がもっとも強く現れる期間」であり、骨の変化そのものはより長い時間をかけて続いていくと考えられるからです。ただし、これは私の臨床実感であり感じ方には個人差があります。数値としての根拠はあくまで前者にあるとご理解ください。

いずれにせよ言えるのは、術後には、時間の使い方で結果が変わりうる時期が存在するということです。

それでも「早く始めればよい」という話ではありません

ここで、逆の方向からも申し上げておく必要があります。

術後の骨はチタンプレートで固定されていますが、まだ癒合の途中です。この時期に力のかけ方・量・方向を誤れば、治癒を妨げる可能性があります。「動きやすい」ことと「動かしてよい」ことは、別の話です。

開始時期を決めるのは次のような要素です。

  • 骨の固定状態(プレートやスクリューによる固定がどの程度安定しているか)
  • 術式(どこを、どの方向に、何ミリ動かしたか)
  • これから歯をどう動かす必要があるか(移動の種類と量)
  • 開口量(口がどれくらい開くか)
  • 全身の状態、腫れや炎症の程度

これらは執刀した医師との情報共有と、精密検査(CT・セファロ)なしには判断できません。 患者さんご自身での判断はできませんし、この記事を読んで「では早く始めよう」と結論づけていただくものでもありません。

もうひとつ、公平にお伝えしておきます。手術を先に行う方法(サージェリーファースト)について、治療期間が短くなるという質の高い証拠はまだ十分ではないという指摘もあります[4]。報告によって結果にばらつきがあり、比較の方法にも課題が残っているためです。「早く終わること」を目的に据えるべきではない、というのが私の立場です。

目的は、骨と歯と筋肉が、無理のない位置で釣り合う状態をつくることです。時期の話は、その手段にすぎません。

「待ちましょう」の理由は、3つに分けられます

そのうえで本題です。「待ちましょう」と言われたとき、その理由は大きく3つに分けられます。

① 体の都合(妥当な理由)

腫れや炎症が強い、骨の固定がまだ安定していない、全身の状態が整っていない——。これらは、待つべき正当な理由です。この場合担当医は「何が落ち着くのを待っているのか」を具体的に説明できるはずです。

② 装置の都合(体の理由ではありません)

手術の直後は口が大きく開きません。指が1〜2本入る程度、ということも珍しくありません。この状態ではワイヤー装置の装着や調整は物理的に難しくなります。

つまり、「口が開くまで待ちましょう」という説明の背景には、体ではなく、使う装置の側の制約がある場合があります。

これは装置の優劣の話ではありません。ワイヤー矯正には長い実績があり、確実に力を伝えられるという明確な強みがあります。ただ、待っている理由が体にあるのか装置にあるのかは区別して理解しておくほうがよいという話です。

なお、3D口腔内スキャナーは限られた開口量でも歯の形を読み取れる場合があります。CTのデータと統合すれば、口が十分に開かない時期でも設計そのものは進められることがあります。装置ごとの向き不向きについては別の記事で詳しく解説します。

③ 連携の都合(待っても解決しません)

術後の矯正を誰が担当するかが決まっていない。手術の記録や術前後のデータが手元にない。この場合、時間が経っても状況は変わりません。むしろ、動き出すべきなのはこちらです。

待つこと自体が問題なのではなく「何を待っているのか分からないまま時間が過ぎること」が問題なのです。

逆に、「できるだけ早く始めたい」というご希望に対して、お待ちいただくことをお勧めしたケースもあります。数か月後に控えた行事に間に合わせたいという理由で、その日程から逆算して治療を組みたいとおっしゃった方がいました。お気持ちはよく分かります。ただ、行事の日付から逆算して力のかけ方を決めるのは順序が逆です。骨の状態が決める時期をこちらの都合で前倒しすることはできません。

そのうえで私は必ず代わりの道をお示しするようにしています。その方には検査のうえで期間内にどこまで変化が見込めるかを整理し、間に合う部分と間に合わない部分を分けてお伝えしました。「止められたことで、かえって信頼できた」と言っていただいたのが印象に残っています。急がせないことも専門家の仕事のうちだと考えています。

待っている間にできること

開始時期が先であっても、次の3つは今から進められます。

  1. 記録を揃える — 手術記録、術前後のCT・セファロ。骨がどこへ何ミリ動いたかが分からなければ、歯をどう動かすかも決まりません
  2. 担当を決める — 誰が、いつから、どういう方針で術後矯正を行うのかを明確にする
  3. 精密検査を予約する — 検査から設計までには時間がかかります。装置をつける日から逆算する必要があります

私の場合、骨の固定状態や術式にもよりますが、症例によっては術後1か月以内に矯正を開始できる場合もあります。 ただしこれは、執刀医との情報共有と精密検査を経たうえでの判断であり、すべての方に当てはまるものではありません。治療の内容や期間には個人差があり、診断には対面での診察と精密検査が必要です。

大切なのは、開始日そのものよりも、その日までを空白にしないことです。

まとめ

  • 術後には骨の代謝が高まり、歯が動きやすくなる時期(RAP)があります。報告では術後3〜4か月ほど、ピークは1〜2か月とされています
  • ただし「動きやすい」ことと「動かしてよい」ことは別です。開始時期は骨の固定状態・術式・全身状態によって変わり、執刀医との情報共有と精密検査が前提になります
  • 「待ちましょう」の理由は、①体の都合、②装置の都合、③連携の都合に分けられます。②と③は、体の理由ではありません
  • 待っている間にも、記録を揃える・担当を決める・検査を予約する、という準備は進められます
  • 早く終わることを目的にせず、骨と歯と筋肉が無理なく釣り合う状態を目指すことが本筋です

「いつから始まりますか」と聞いたときに、その理由まで説明が返ってくるかどうか。それが、いま確認していただきたい一点です。

ご相談ください

いま何を待っている状態なのか。いつから、何を、どの順序で進めるべきなのか。まずはその整理から始めましょう。

オンライン相談では、「これまでに言われたことの矛盾を整理する」ことを大切にしています。医院ごとに違うことを言われて動けなくなっている、という方はとても多いです。その場で治療をお勧めすることはありませんし、他院と比較検討していただくこともむしろお勧めしています。

ご相談は公式LINEからご予約いただけます。ご登録後、手術を受けた時期・術式と、これまでに相談した医院で言われたことをお送りいただければ、当日の相談がより具体的になります。

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参考文献

  1. Verna C. Regional Acceleratory Phenomenon. Front Oral Biol. 2016.(RAPの生物学的機序をまとめた総説。骨のつくり替えを担う細胞の活性が高まり、数か月かけて通常レベルへ戻ることを解説)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26599115/
  2. Liou EJ, et al. Surgery-first accelerated orthognathic surgery: postoperative rapid orthodontic tooth movement. J Oral Maxillofac Surg. 2011;69(3):781-785.(両顎手術後に骨代謝が亢進し、術後矯正における歯の移動が速まることを示した研究)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21353934/
  3. Orthognathic surgery: Is surgery first approach a viable option in orthognathic surgery?(手術により歯槽部の骨代謝が亢進する期間を術後3〜4か月、ピークを術後1〜2か月と整理した論考)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12156840/
  4. Does a surgery first approach to orthognathic treatment of class III skeletal relations result in a shorter duration of treatment? A systematic review. Br J Oral Maxillofac Surg.(11件の観察研究を検討し、治療期間の短縮を裏づける質の高い証拠は得られていないと結論づけたシステマティックレビュー)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34663525/
  5. 公益社団法人 日本矯正歯科学会「矯正歯科治療の診療ガイドライン」
    https://www.jos.gr.jp/guideline

■この記事の執筆者

歯科医師 西川徹(両顎手術後矯正専門 矯正医)

昭和大学歯学部卒業。両顎手術専門クリニック(鶴木クリニック)にて顎矯正手術の見学・アシストを多数経験し、外科的視点を踏まえた矯正治療プランニングを専門とする。CT・セファロ分析に基づく精密な診断のもと、サージェリーファースト後のマウスピース矯正から、手術を伴わない治療まで、患者一人ひとりの骨格とご希望に合わせた治療を提供している。

両顎手術後の矯正専門|鶴木クリニック(提携)矯正担当
European Aligner Society(EAS) 会員
アライナー矯正認証協会(ABAO) 準会員