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管楽器奏者の矯正

トランペットの高音が出ない・音域が落ちた|奏法か、歯並びか【演奏歴20年の矯正医】

「チューニングのB♭までは普通に吹ける。その上になると、急に音が薄くなる」

「昔は当たっていたハイB♭が当たらなくなった」

「音域が年々少しずつ狭くなっている気がする」

「日によって調子の差が激しくて、本番でどうなるか分からない」

心当たりはありませんか。

高音の悩みを相談すると返ってくる答えはだいたい決まっています。息のスピードを上げましょう。支えが足りない。口輪筋を鍛えましょう。マウスピースを変えてみたら。リップスラーを毎日。

どれも正しいアドバイスです。私も全部やりました。

そして、この記事にたどり着いた方はたいていもう試しています。それでもさらに良い方法はないかと日々探し続けているのだと思います。

この記事の結論(ここだけなら1分で読めます)

  • 高音が出ない原因は1つではありません。練習・体の使い方・道具、そして「歯の位置」です
  • 高い音ほど、マウスピースから唇へのプレスは増えます。その力を受け止めているのは、唇のすぐ裏にある歯です
  • 中音域では隠れていた土台の問題が、余裕のなくなる高音でだけ表面化することがあります
  • この記事は「歯を治せば高音が出る」という話ではありません。練習で変えられるものと、変えられないものを先に切り分ける——その方法の話です

目安は約8分。お急ぎの方は「奏法か、歯か——診察室ではこの順番で切り分けています」の章だけ読んでいただいても構いません。

私は9歳からトランペットを吹いています。大学のビッグバンドでは、リードトランペットを務めていました。

リードにとって高音は、「出せたら格好いい」ものではなく、毎週の練習と本番で必ず求められる仕事でした。だから、高音が出ない時期の焦りも、調子の波に振り回される感覚も、人並み以上に知っているつもりです。

今は矯正歯科医として、歯並びを専門に診ています。吹く側と、歯を診る側。両方から見えることをお話しします。

なお、この記事はトランペットを軸に書きますが、「高い音ほど唇への力が増える」という構図は、ホルンやトロンボーンなど金管全般に共通します。

「高音が出ない」と相談すると、返ってくる答えは決まっています

まず、実際によく聞く声から始めます。

  • 「息のスピードが足りないと言われて呼吸法を変えた。半年続けても、出る音域はあまり変わらなかった」
  • 「浅いマウスピースに変えたら一時的に楽になったけれど、音色が痩せて結局戻した」
  • 「リップスラーは毎日やっている。それでも、ある音から上にだけ壁がある」
  • 「無意識にマウスピースを少し横にずらして構えている。直そうとするともっと出なくなる」

こうした試行錯誤は間違っていません。息も、体の使い方も、道具も、高音を構成する大事な要素です。

ちなみに私がリードを務めていたときは、吹く音は基本的にすべて5線より上で、ハイE♭なども曲中に頻発していました。最終的には調子が良くても悪くても出るようになりましたが、調子が悪いときに無理して吹くこともあり、その後にさらに調子を崩したり、バテやすくなったり、大事なところが吹きにくくなったり、逆に低い音が出しにくくなったり——バランスの良いコンディションで吹けているときと比べて、明らかにその前後に影響が出る経験を、何年も、何度もしてきました。

そのたびに基礎練習の時間を増やし、呼吸法や体の使い方を見直して、コンディションを少しずつ安定させていく。そうやって徐々に吹けるようになってきました。

そうです。私もトランペット吹きとして、皆さんと同じ——あなたと同じ——苦労をしてきました。

ただ——当たり前と言えば当たり前ですが——これはどれも「唇より外側」の話です。

私が今回お話ししたいのは、楽器の奏法に関する基礎として大事な部分に加えて、もう一つ、人によっては根本的な部分でどうしても見逃せない要素についてです。それは歯並びです。

演奏の不調全般と歯の関係については、粘膜奏法の記事で書きました。今回はその中でも特に相談の多い「高音」に絞って、一段深く掘ります。

高い音ほど重要になる要素——唇へのプレスを受け止めているのは歯です

高い音を出すとき、唇には何が求められるでしょうか。

振動を速くすることです。そのために、唇の隙間(アパチュア)を狭くし、速い息を通す。ここまでは、奏法の本にも書いてあるとおりです。

そのとき、同時に起きていることがあります。マウスピースを唇へ押し当てる力(プレス)が増えることです。トランペット奏者のプレスを実測した研究では、音が高くなるほど、また音量が大きくなるほど、力が増えることが報告されています[2]。ハイトーンをフォルテで——という場面は、唇にとって最も負担のかかる場面です。

では唇がマウスピースからのプレスを受けた時に、その力を最終的に受け止めているのはどこでしょうか。——前歯です。

唇は、それ自体では形を保てない柔らかい組織です。マウスピースの力を受け止めている土台は唇のすぐ裏にある前歯です。

だから、前歯の条件が高音の条件に直結します。

  • 前歯の並びが揃っていれば、力は面で分散します。一部だけ重なっていたり、前に出ていたり(傾いていたり)すると、そこにプレスの力が集中します
  • 重なりを避けるために、マウスピースを中央からずらして構えざるを得なくなっている場合もあります

管楽器奏者を対象にした系統的レビューでも、噛み合わせのズレが大きいほど、演奏やアンブシュアの快適さへの影響が大きくなると報告されています[1]

中音域では隠れます。高音でだけ、土台の問題が表面化します

「でも、真ん中の音域は普通に吹けるんです」と言われることがあります。

それこそが、この問題の分かりにくいところです。

中低音では、アパチュアは広く、当てる力も小さい。唇に余裕があるので、土台に多少の凸凹があっても、唇の柔らかさで吸収できてしまいます。

高音は逆です。振動の効率、当てる力、ミリ単位の当て位置。すべての条件がシビアになり、余裕がなくなります。そして余裕がなくなったときに初めて、土台の問題が音に出ます。

つまり「高音だけ出ない」は、「高音のときだけ問題が起きている」のではなく、「高音になって初めて、隠れていた問題が表面化している」のかもしれない、ということです。

心当たりを探すなら、次のようなサインがあります。

  • ある音から上にだけ、はっきりした壁がある
  • 日によって調子の差が大きい(当てる位置がわずかにずれるだけで条件が変わるため)
  • 無意識に、マウスピースを中央からずらして構えている
  • 長時間吹いたとき、高音から先に崩れていく

ただし、正直に書きます。同じサインは奏法や体の使い方、道具の問題からも起こります。この記事を読んだだけで「自分は歯が原因だ」と判定することはできません。

だから、切り分けます。

奏法か、歯か——診察室ではこの順番で切り分けています

高音の相談を受けたとき、私が実際に見ている順番です。

① いつから、どのように始まったかを聞く
徐々にか、ある時期から急にか。奏法や体の変化も含めて幅広く見ます。

② 口の中と、構え方を見る
前歯の重なり・段差・傾き。そしてマウスピースを当てている位置。中央からずらして構えている方には、それが「歯の重なりを避けた結果」なのか、「ただの癖」なのかを確認します。この区別で、対応はまったく変わります。

③ レントゲン・CTで写す
前歯の傾きや上下の前後関係が、あごの骨によるものか、歯の傾きによるものか。親知らずの位置と、押している方向。ここは写真に写る領域です。

④ 実際に吹いてもらう
診療室で楽器を構えてもらい、当たりと息の流れを見ます。「その人の吹き方の癖」は、レントゲンには写りません。実際に吹いていただいて初めて見えます。

この4つを重ねていくと、「練習で変えられる要因」と「練習では変えられない要因」が分かれていきます。

そして、歯が原因ではないと判断したらはっきりそうお伝えします。その場合、課題は奏法や体の側にあると分かる。探す場所が絞れるので、原因の候補を1つ消せることも検査の立派な成果だと考えています。

プロの金管奏者でも、6割が不調を経験しています

数字を1つだけ。プロのオーケストラで演奏する金管奏者585人を対象にした調査では、59%が何らかのアンブシュアの不調を経験していました[3]

プロでも、6割です。

高音が出ないことは、才能や根性の問題ではありません。体の構造と、その使い方の問題です。だから、調べれば分かることがあります。

もし歯が原因でも、演奏を止めずに治療する方法はあります

切り分けの結果、歯並びが関わっていそうだと分かったとします。

そこで「矯正して、いま何とか保っている高音まで崩れたら本末転倒だ」と身構える方は多いはずです。高音を仕事にしてきた立場として、その不安は当然だと思います。

要点だけお伝えします。演奏のときに自分で外せる矯正装置、すなわちマウスピース矯正(アライナー)であれば、吹く瞬間はいつもの唇の状態に近いまま保てます。そのうえで、歯の表面につける突起(アタッチメント)は唇の当たる前歯を極力避け、必要な場合も位置と形を工夫する。診療室で実際に吹いてもらいながら調整し、本番の予定に合わせて歯を動かすペースを組む。イギリスの矯正歯科の学会も、奏者の矯正では使っている楽器と演奏への影響を治療前に必ず話し合うべきだとしています[4]

装置の詳しい比較や、トランペット奏者の実際の治療の進め方は、別の記事にまとめています。

ひとつだけはっきり書いておきます。歯並びを整えれば高音が出るようになる、と約束するものではありません。奏法の癖は残りますし、変化の程度には個人差があります。それでも、練習では一度も触れられなかった「土台」に手が届く選択肢がある——それが、今回の話の意味です。

いま確認していただきたい3つのこと

矯正を考えていなくても、次の3つは今日から確認できます。

第一に、マウスピースを当てている位置です。鏡の前で構えて、中央か、ずれているか。ずれているなら、「そこにしか当てられない理由」が口の中にないか、指で前歯の並びを触って確かめてみてください。

第二に、「いつから」を思い出すことです。ある時期から急に変わったなら、歯並び側の変化を疑う価値があります。近所の歯科でレントゲンを1枚撮れば分かります。矯正の相談でなくて構いません。

第三に、相談する相手です。楽器の先生は歯を診断できませんし、楽器を吹いたことのない歯科医は、奏法の側を評価しにくい。「奏法」と「歯」の両方を見られる相手かどうかを確かめてください。

最終的な判断には、レントゲンやCTなどの精密検査と、対面での診察が必要です。文章だけで「あなたは歯が原因です」と断定できるものではない点は、正直にお伝えしておきます。

まとめ

  • 高音が出ない原因は1つではない。練習・体・道具、そして歯の位置
  • 高い音ほどマウスピースの力は増え、それを受け止めているのは唇のすぐ裏の前歯
  • 中音域で隠れていた土台の問題が、余裕のなくなる高音でだけ表面化することがある
  • 最初にやるべきは練習の追加ではなく、原因の切り分け
  • 歯が原因でないと分かることにも、「探す場所が絞れる」という価値がある

練習で変えられるものと、練習では変えられないもの。

高音は、その線が一番はっきり音に出る領域だと考えています。線がどこにあるのかを知ることが、遠回りを止める一番の近道です。

粘膜奏法と、演奏の不調全般の切り分けは、こちらの記事(粘膜奏法の原因は、練習不足ではないかもしれません)にまとめています。
トランペット奏者の治療設計と実例は、こちらの記事(トランペット奏者の歯列矯正|高音・アンブシュアを守って整える)で解説しています。
管楽器全般の考え方は、こちらの記事(管楽器を続けながら歯並びを整える|奏者のためのマウスピース矯正)でお話ししています。

よくあるご質問

高音が出ないのは、歯並びが原因なのでしょうか?

練習内容や体の使い方、道具、そして歯の位置など、複数の要因が関わります。人によっては歯が原因となっている場合があります。
実際に歯が関わっているかどうかは、レントゲンやCTなどの精密検査と対面での診察で切り分ける必要があります。

矯正をすれば、高音の悩みは解消しますか?

歯並びを整えれば高音が出るようになる、と約束するものではなく、奏法の癖は残りますし、変化の程度には個人差があります。まず原因の切り分けから始めることをおすすめします。

中音域は吹けるのに、高音だけ出ないのはなぜですか?

中低音では唇に余裕があり、土台の凸凹を唇の柔らかさで吸収できることがあります。高音では当てる力や位置の条件がシビアになるため、隠れていた土台の問題が表面化する場合があります。ただし奏法や道具が原因のこともあり、診察での確認が必要です。

日によって調子の波が大きいのも、歯と関係がありますか?

前歯に重なりがあると、マウスピースを当てる位置がわずかにずれるだけで条件が変わり、調子の波につながる場合があります。実際に吹いていただきながら確認します。

相談したら、矯正をすすめられますか?

その場で治療をお勧めすることはありません。検査の結果、歯が原因ではないと判断した場合ははっきりそうお伝えします。

まず「その高音の壁が、歯のせいなのか」を一緒に切り分けませんか

「高音が出ない。音域が狭くなった。もしかして歯?」という方も
「歯並びを整えたい。でも矯正で高音が崩れるのが怖い」という方も——どちらも、演奏を最優先に考えます。

オンライン・60分・無料の「管楽器奏者のための歯並び相談会」では、次のことを一緒に整理します。

①高音・音域の不調と歯の関係について、あなたの場合はどうか
②矯正しながら楽器が吹けるか
③あなたに合う進め方の概要
④だいたいの治療期間
⑤治療の特徴と、想定されるリスク

その場で治療をお勧めすることはありません。「歯は関係なさそうですね」で終わることもあります。まずは公式LINEからお気軽にどうぞ。

公式LINEで相談する(無料)

※この治療は自由診療(マウスピース矯正)です。費用の目安は総額75〜100万円程度、治療期間は6か月〜1年6か月程度です。主なリスク・副作用として、装置をつけている間の一時的な発音や演奏の違和感、歯の痛み、歯の根が短くなることなどがあります。効果や経過には個人差があります。診断には対面での診察と精密検査が必要です。

執筆・監修者

執筆・監修:歯科医師 西川徹(矯正医/マウスピース矯正)
昭和大学歯学部卒業。9歳からトランペットを始め、吹奏楽・オーケストラ・ビッグバンドジャズで20年以上演奏を続ける(大学ではリードトランペット/コンサートマスター)。自身が奏者である経験を活かし、管楽器奏者のためのマウスピース矯正——演奏を止めずに歯並びを整える治療設計——を提供している。CT・セファロ分析に基づく精密な診断のもと、両顎手術後の術後矯正から手術を伴わない治療まで対応。
European Aligner Society(EAS) 会員/アライナー矯正認証協会(ABAO) 準会員

参考文献

  1. van der Weijden FN, Kuitert RB, Berkhout FRU, van der Weijden GA. Influence of tooth position on wind instrumentalists’ performance and embouchure comfort: A systematic review. J Orofac Orthop. 2018;79(3):205-218. PubMed
  2. Barbenel JC, Kenny P, Davies JB. Mouthpiece forces produced while playing the trumpet. J Biomech. 1988;21(5):417-424. PubMed
  3. Steinmetz A, et al. From embouchure problems to embouchure dystonia? A survey of self-reported embouchure disorders in 585 professional orchestra brass players. Int Arch Occup Environ Health. 2014. PubMed
  4. British Orthodontic Society. Advice for orthodontists providing treatment for wind instrumentalists (2020). British Orthodontic Society